一人の日本人女性の思いから始まった、ハリソン図書館の日本語コーナー

日本人が多く暮らすウェストチェスターのハリソン。そのハリソンにある図書館には、日本語の蔵書がとても充実しているのをご存じでしょうか。

図書館の一角には、棚2列ともう1つの棚を使った日本語コーナーがあり、絵本や児童書から大人向けの本まで、様々なジャンルの日本語の本がずらりと並んでいます。アメリカに住んでいながら、これだけたくさんの日本語の本を気軽に借りられるのはうれしいです。

この日本語コーナー、もともとはハリソンに長く暮らすブラウンきよ子さんの働きかけをきっかけに始まったと伺い、今回ブラウンさんに当時のお話を聞かせていただきました。

ブラウンさんがハリソンに移り住んだ1980年代頃は、今とは違って、日本人はほとんど住んでいなかったそうです。ブラウンさん自身もまだ地域のことをよく知らず、当時は「図書館といえば学校にあるもの」と思っていて、一般の人が利用できる図書館が地域にあることをご存じなかったそうです。

ある日、散歩をしている途中に偶然図書館を見つけ、その存在を知ったブラウンさん。本が好きだったこともあり、地域に根付く図書館を支援したいと考え、寄付を始められたそうです。

当時、図書館にあった外国語の本はドイツ語やスペイン語の本が少しある程度でした。そこで寄付の手続きをする際、「日本語の本も入れてもらえないか」とお願いしてみたそうですが、当時のハリソンには日本人がほとんど住んでおらず、需要がないという理由から受け入れてもらえませんでした。

それでもブラウンさんは寄付を続けながら、機会があるたびに日本語の本の購入をお願いしたそうです。

長くハリソンに暮らすうちに、ウェストチェスターの他の地域に住む日本人との交流も増えていきました。知り合いになった日本人の中に、妊娠中でつらそうにしている方がおり、「日本語の本があれば少しでも気休めになるのでは」と、再び図書館にお願いしたこともあったそうです。しかし、その時も「ハリソンには必要ない」との判断だったそうです。

そんな状況に転機が訪れたのは、その後、何人か館長が代わり、外国出身の方が館長に就任してからでした。

ご自身も外国出身ということもあり、それまでとは違った視点を持っていた館長さんがブラウンさんの要望を聞き入れてくださり、ついにハリソン図書館でも日本語の本を購入するようになったそうです。

ブラウンさんが寄付した基金をもとに「Kiyoko Brown Endowment Fund」が作られ、そこから日本語の本の購入が始まりました。

その後、日本の子ども向けの本などが入るようになった頃から、ハリソンにも多くの日本人家族が移り住むようになり、日本人の図書館利用者も増えていったそうです。

今では一角が日本語コーナーになるほど充実した蔵書ですが、その始まりには、日本人がほとんどいなかった時代から「日本語の本を置いてほしい」とお願いし続けたブラウンさんの思いがあったのですね。

ブラウンさんと図書館との関わりは、本だけではありません。

ハリソン図書館前で開催されるお祭りの日本コーナーも、ブラウンさんとご友人の3人で始めたそうです。当時は焼き鳥を販売していて、長い行列ができるほどの人気だったとか。その後、保健所から食品販売について細かな指導が入ったことで食べ物の販売が難しくなり、折り紙などのアート&クラフトを行うようになり、現在のお祭りに近い形へと変わっていったそうです。また、お祭りでは近隣のお店に寄付をお願いする活動も行い、集めたお金をHarrison市に寄付していました。この活動はハリソン祭りの実行委員会が今でも続けています。

現在ブラウンさんは、日本語の本の購入や整理には携わっておらず、増えた日本語の蔵書は日本人のボランティアの方々によって整理されています。一方、日本人向けのESLでは、「Kiyoko Brown Endowment Fund」を通して先生の授業料を提供しているそうです。毎週の参加申し込みの受付や当日の運営については、日本語を話せるボランティアの方々が担当してくださっています。ブラウンさんから始まった活動が、今では地域に暮らすさまざまな方の手によって受け継がれているのですね。

図書館の一角に何気なく並んでいるたくさんの日本語の本。その背景を知ると、見慣れた本棚も少し違って見えてきます。

日本語の本を読みたい方はもちろん、お子様に日本語の絵本を読ませたい方、日本人向けのESLに興味がある方も、ぜひ一度ハリソン図書館を訪れてみてはいかがでしょうか。

Harrison Public Library Home · Harrison Public Library
2 Bruce Ave, Harrison NY 10528

コラム『楽しい米語 Watch』

Job Hugging「仕事への“しがみつき”」

 アメリカの金融や情報産業などホワイトカラー職場における最近の動向を示す言葉の一つがJob Hugging。仕事をHug(抱きしめる)とは、「その仕事にとにかくしがみつく」ことを意味します。仕事に満足してはいないが、飛び出して職を探すのはリスクが高すぎるので、様子を見ようとHugするのです。実際、労働に関する調査会社の統計によると、アメリカの転職率は今年の初め9年ぶりの低さを記録しました。経済・雇用情勢の先行きが見えないことがその背景にあるのでしょう。とりわけ、AIの急激な浸透が職場に与える衝撃は、そして社会全体の雇用に与える影響は・・・と多くの人が経済の将来に大きな不安を覚えています。
 勿論、ただ様子を見るだけでなく、Quiet Quittingをして、「仕事をしながらも静かに手を抜いて」自分の時間を作る人も多いでしょう。その中には、自分の得意なGig (ちょい仕事)をサイドで行いながらHuggingを続ける人も少なくないでしょう。
 数年前には新しい仕事を求めて大量の人が職場を去るGreat Resignationという言葉が流行りましたが、それは過去のものです。アメリカの株価は高い水準を保っていますが、ホワイトカラー層の仕事は厳しいものになりつつあります。このような状況下において、会社経営者は、社員の離職率が低いからといって安心できません。社員が本当に仕事に満足し働いているのか、もしくは不満ながらもJob Huggingしているのかを見極め、業務の生産性と社員の満足度の向上に最善を尽くさなければならないのです。


(旦 英夫 Rye在住 ニューヨーク州弁護士)
「週刊NY生活」「朝日新聞」「朝日ウィークリー」にて連載
 著書「米語ウオッチ・アメリカの「今」を読み解くキーワード131(PHP刊)」 がNY紀伊國屋にて好評発売中

カテゴリー: 公共施設, 公園, 図書館, 子供 | コメントを残す